先日読んだ小説に主人公の浄瑠璃作者が暗峠を越えて奈良へ行くというシーンがあった。自分も暗峠を越えてみようと思った。
11時半、旭区、太子橋今市駅から大阪内環状線(国道479号)に入り南へ。右が城東区、左が鶴見区。
深江橋を左折、国道308号を東へ。中央大通。道なりに進み東大阪市。
新石切駅を過ぎて左折、12時半頃、石切剣箭神社に到着。
参拝客が多い。神社の前で列になって輪になって、行ったり来たりとぐるぐる回る、御百度参りをしている人たちも多い。高齢の方々も回っているようだったが意外とその回転は速い。
神社の前から坂を上っていく路地があった。石切参道商店街のアーチ。
道幅の狭い商店街は多くの人たちで賑わっていた。
路地の両側には、飲食店、食品、お土産、占い、漢方薬、古物商、衣料品、日用品などが並ぶ。
店番をしているおばさんたちが行き交う参拝客に声を掛ける。参拝客は興味深そうに店先に並べられた様々な商品を覗きながらそぞろ歩いていく。
まだこういうところが残っていたのか。
賑わう商店街の雰囲気に古い記憶の層を撫でられたように感じて鳥肌がたつ。
すれ違いざまに聞こえてくる会話の断片。「日本だなーって思える匂いでしょう」
坂道を上っていき、賑わいが落ち着いてくる辺りから占いが多くなる。
「そ、れ、は、大凶」、占い師おばさんの前に、肩を落としうなだれているおばさんの後ろ姿。
壺や石像などを売っているところもあった。
しばらく上がっていくと、線香のいい匂いに気がついた。
電柱のスピーカーからミスチルの何かの曲がオルゴールバージョンでずっと流れていた事にも気がついた。
ゆれる線香の煙に冬の陽光が射し込んでいる。柵の隙間から出てきた猫が路地を横切っていく。
この辺りはもう人の行き来も少なくなっていて、穏やかな時間が流れていた。
心の淀みが浄化されていくようだった。(ミスチリン)
商店街の途中「名所 日本で三番目 石切大佛」と書いてある大仏があった。ほんまかいなと言っている人がいた。
石切駅まで上がった。坂道はきつい。地元の高齢者が杖をつきながらゆっくりと上がっていく。学生も自転車を漕いで上がっていく。
この坂道にも生活。
折り返し、神社まで戻り、再び東へ進むと近鉄奈良線の線路にあたる。線路に沿って南へ。額田駅。景色に高低差があり楽しい。
バイクを停めるところを探したら枚岡公園管理事務所の前に駐輪場があった。
事務所の方がいくつかのコースについて説明してくれた。地図ももらった。猪が出ることもあるので気をつけるようにとも言われた。
枚岡公園ではクロスカントリー大会が開催されていた。学生たち、その先生たち、○○中学柔道部ーファイト―ファイト―、との掛け声。
13時45分、ランニング開始。国道308号へ出、暗峠を上る。思い出せない花の匂い。
暗峠はかなりの急勾配だった。すぐにこの坂を走るのは無理だと悟った。
少し早い歩きくらいで上がることにした。
道幅は狭く、車がすれ違えないところもある。下りてくる車のブレーキが焼ける匂いがする。
この峠を近松半二も通った。参勤交代も通った。松尾芭蕉も通って一句読んだと石碑があった。
「菊の香に くらがり越ゆる 節句かな」
とにかく傾斜が強い。
先のカーブまで上がる度に、この急勾配はいつまで続くのだろうかと思った。
先人たちも同じように思っただろうか。
緩まることなく続く急傾斜に、時代を越えた幾千万人の体験の記憶が重なる。
いつの間にか下ばかり見て歩いていたことに気がつき、顔を上げる。
私も今、上がっておりますよ。
上体を起こし、踏み出す脚に力を入れ、少しスピードを上げる。
14時20分頃、峠を上りきる。ここから先は奈良。
たしかに空気が変わったような気がした。畑の匂い。おじいさんがラジオを聴きながら斧で木を割っていた。
生駒山の山頂まで上ることにした。
山道。
ワラーチ(手作りサンダル)で山道を歩くのは初めてだった。
ぬかるんでいるところは辛かった。
しばらく上がると景色が開けた。
左側に奈良盆地、真ん中に生駒山地、右側に大阪平野のパノラマ。
一万年かけて淀川と大和川が土砂を運び広い平地ができた。広い平地ができたらそこに人が増えはじめた。人が増えると街になり、そこで技術や文化や思想が生まれる。今もそこに私たちの生活があり、私は今日そこから上がってきた。
一万年の歳月と地球の大きなエネルギーのリアル、それが現実に圧倒的なスケールの大きさを持って目の前に広がっていることの説得力。
すごすぎる。
(動画をどうぞ)
(新しいスマホなので動画も撮ってみました)
パノラマ駐車場からもう少し山道を上るとテレビ塔があった。山頂なのかもしれない。私の家でもここから送信された電波を受信しているのだと思う。
14時50分、山頂に到着。
山頂には遊園地があったが冬の間は休み。
人が誰もいない山頂の遊園地の寂しさは、山頂到着の達成感を一瞬にして忘れさせた。
電気の切れた人気のないアトラクションたちは、錆や老朽化が妙に目につき、華やかさの裏側を見てしまったような気持ちになった。
若いカップルや家族連れで賑わう休日、最高の遊園地日和、青空にはためくカラフルな万国旗、かわいいメリーゴーランドの楽しいワルツ、ローラーコースターが急降下していく音、楽しそうな人々の叫び声、回るティーカップの光、ウォータースライダーの水しぶき、あちこちから聞こえてくる子供たちの歓声、、
この地の記憶だろうか。今はそのすべてがない。
吹きつけてくる冷たい風の音しかしない。寒い。自然と小走りにもなる。
山頂についたら急に寒くなった。なんとなくウエストポーチにウルトラライトダウンを詰めてきて本当によかった。
トイレだけは温かかった。焼ける感じのヒーターがついていた。このヒーターはずっと誰もいないトイレを温め続けているのだろうか。
このヒーターも誰かが設置してくれたものだのだ。人が人を思う気持ちの存在を見つけ、未来への希望と感謝の念がわく。
15時10分頃より下山。
地図を見ながら「摂河泉展望コース」を通り下山。すこし走れたのでよかった。
16時頃、無事下山。(いつのまにか登山になっていた)
クロスカントリー大会に参加した中学生の集団が楽しそうに帰っていった。自分の学生時代を思った。
Twitterで有馬先生が教えてくれた「石切夢観音」を見に行ったら閉業していた。
裏手から。閉業していた。
石切劔箭神社上之宮の隣だった。
大きな神社ではなかったが、気持ちのよい神社だった。
今回も軽食→銭湯→帰路は中止してそのまま帰った。