読んだ。 #ケーキの切れない非行少年たち #宮口幸治
読んだ。 #ケーキの切れない非行少年たち #宮口幸治
児童精神科医である宮口さんは、医療少年院での数多くの非行少年たちと出会いのなかで、「反省以前の子ども」、認知力が弱く、簡単な足し算や引き算ができない、漢字が読めない、簡単な図形が書き写せない、ケーキを3等分に切ることが出来ない、というような発達障害、知的障害、境界知能の少年たちが大勢いるという事に気づかれたらしい。
「境界知能」に当たる人は、人口の14%くらいいるらしく、彼らは子どもの頃から学校での勉強についていけなかったり、社会生活のなかでもうまくいかないことが多く、社会に対する認知が歪んでしまっていることによって、非行や犯罪に陥ってしまったケースも少なくないのではないかという話。
「自由意志」や「個人の責任」に関わるような話ではあるが、そのような考え方を知ることによって、再犯の防止や、子どもたちへの教育へのヒントにもなっていると思われる。
自分の子どもの頃のことや、反社会的な人たちのことを考えながら読んだら、リアリティを感じた。
第1章 「反省以前」の子どもたち
17 医療少年院は、特に手がかかると言われている発達障害・知的障害を持った非行少年が収容される、いわば少年院版特別支援学校といった位置づけです。全国にこのような少年院は3ケ所あります。非行のタイプは窃盗・恐喝、暴行・障害、強制猥褻、放火、殺人まで、ほぼすべての犯罪を行った少年たちがいます。
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・簡単な足し算や引き算ができない
・漢字が読めない
・簡単な図形を写せない
・短い文章すら復唱できない
27 褒める教育だけでは問題は解決しない
第2章 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年
36 計画が立てられない、見通しがもてない
ルーチンの面接のなかで、少年たちにどうして非行をしたのかを尋ねてみます。するとみんな、「後先のことを考えていなかった」と、口を揃えたかのような答えが返ってきます。そして、今後の目標として「これからは後先のことを考えて行動するようにしたい」と答えます。
38 そもそも反省ができず、葛藤すらもてない
39 しかし、診察を続けていると、彼らは何に対しても「イライラする」という言葉を使っていることに気づきました。担任の教官が来てくれなくてイライラ、親の面会がなくてイライラ、はまだ分かるのですが、お腹が空いてもイライラ、暑くてもイライラ、被害者に悲しい思いをさせたことに気づいて自分にイライラ、悲しいことがあってもイライラ、なのです。実は、彼らは感情を表す言葉として、「イライラ」しか知らないのでした。
40 自分はやさしいと言う殺人少年
41 ある殺人を犯した少年も、「自分はやさしい」と答えました。そこで「どんなところがやさしいのか?」と尋ねてみると「小さい子どもやお年寄りにやさしい」「友だちからやさしいって言われる」と答えたりするのです。“なるほど”と思いました。そこでさらに私は「君は○○して、人が亡くなったけど、それは殺人ですね。それでも君はやさしい人間なの?」と聞いてみますと、そこで初めて「あー、やさしくないです」と答えるのです。
逆にいうと、“そこまで言わないと気付かない”のです。いったいこれはどういうことなのか。これではとても被害者遺族への謝罪などできるはずがありません。逮捕されてから少年院に入るまでひと月以上は経っており、その間に自分の犯した非行が十分にわかっているはずなのに、です。
45 しかし、幼児に強制猥褻をする性非行少年は、概して性欲が特別強いわけでもなく、大人の女性にもあまり興味がありません。むしろ大人の女性は怖いようで、「女の子は8歳までしか興味ない。9歳を超えると怖い」という少年もいました。
子供の発達段階を理解するうえで”9歳の壁”という概念があり、その壁を超えると子どもはガラリと変わります。その一つは、想像力が急速に発達して口達者になることです。そういう意味では、”9歳を超えると怖い”というのは一理あるのですが、ともあれ彼らは当然、同級生の女性との健全な交際などできません。しかし女性とは仲良くなりたい。だから8歳以下の女児に興味が出てきた、というわけです。
第3章 非行少年に共通する特徴
47 非行少年の特徴5点セット+1
・認知機能の弱さ・・・見たり聞いたり想像する力が弱い
・感情統制の弱さ・・・感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる
・不適切な自己評価・・・自分の問題点が分からない。自信がありすぎる。なさ過ぎる
・対人スキルの乏しさ・・・人とのコミュニケーションが苦手
+1 身体的不器用さ・・・力加減ができない。身体の使い方が不器用
52 「不真面目な生徒」「やる気がない生徒」の背景にあるもの
54 想像力が弱ければ努力できない
74 融通の利かなさが被害感につながる
87 身体的不器用さについては、発達性協調運動症といった疾患概念があります。
協調運動とは、別々の動作を一つにまとめる運動です。例えば、皿を洗う時、皿が落ちないように一方の手で皿を掴み、もう一方の手でスポンジを握って皿を擦るという、2本の手が別々の動作を同時に行う高度な協力が必要です。これが協調運動です。身体的不器用さはこの協調運動に障害があるため、粗大な協調運動(身体の大きな動き)や微細な協調運動(指先の動作)に困難を来すのです。5~11歳の子供で約6%いるとされています。
身体的不器用さは、協調運動が必要とされる日常生活上の身体活動の獲得や遂行に困難さを生じます。手先の器用さと言われる微細運動には、靴紐を結ぶ、ボタンをかける、といった身体的な自立をする上で重要な動きや、字を書く、ハサミを使う、折り紙を折る、楽器を演奏する、といった創作的活動に必要な動きがあります。身体的不器用さは、スポーツが苦手というだけでなく、身辺自立や創作活動などに支障を来すことも懸念されます。かつて身体的不器用さは成長につれ自然消滅すると考えられていましたが、青年期に入ってもなお持続している例も数多く報告されています。
第4章 気づかれない子どもたち
91 子どもたちが発しているサイン
94 サインの「出し始め」は小学2年生から
98 「クラスの下から5人」の子どもたち
では、特別な支援が必要ながら、気づかれていない子どもたちは、どのくらいいるのでしょうか。
現在、知的障害は一般的にIQが70未満で、社会的にも障害があれば診断がつきます。これら知的障害の定義は、米国主導で行われてきました。アメリカ精神医学会による「精神障害の診断と統計のマニュアル 第5版(DSM‐5)」以降は、知的障害の診断からIQの値が外されましたが、実際の医療や福祉の領域では依然としてIQの値は使われています。
現在、一般に流通している「知的障害はIQが70未満」という定義は、実は1970年代以降のものです。1950年代の一時期、「知的障害はIQ85未満とする」とされたことがありました。IQ70~84は、現在では「境界知能」と言われている範囲にあたります。しかし、「知的障害はIQが85未満」とすると、知的障害と判定される人が全体の16%くらいになり、あまりに人数が多過ぎる、支援現場の実態に合わない、など様々な理由から、「IQ85未満」から「IQ70未満」に下げられた経緯があります。
ここで気付いて欲しいことがあります。時代によって知的障害の定義が変わったとしても、事実が変わるわけではないことを。IQ70~84の子どもたち、つまり現在でいう境界知能の子どもたちは、依然として存在しているのです。
では、これらの子どもたちはどのくらいいるのでしょうか。知能分布から算定すると、およそ14%いることになります。つまり、現在の標準的な1クラス35名のうち、約5人いることになります。現在の学校では、このようにクラスで下から5人の子どもたちは、周囲から気付かれずに様々なSOSのサインを出している可能性があるのです。
100 病名のつかない子どもたち
通常、クラスの中にはADHD(注意欠陥多動症)やASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)といった診断がついている子どもたちがいることがあります。診断があれば周囲からの理解はまだ得られやすいのですが、クラスで下から5人は困っているにもかかわらず診断がつくことはありません。病院に行って色々検査を受けても、IQが70以上あれば「知的には問題ありません。様子をみましょう」と言われ、何らかの支援を受ける機会を逃しているのです。
ただ、そもそも知的障害自体は病院の治療対象ではありませんので、軽度知的障害であっても気づかれる場合は少なく、診断がつくことも少ないのです。
第5章 忘れられた人々
105 どうしてそんなことをするのか理解不能な人々
107 かつての「軽度知的障害」は人口の14%いた?
112 虐待も知的なハンディが原因の場合も
育児は予期できないことの繰り返しです。そこでもし親に知的なハンディがあれば、パニックを起こす、赤ちゃんが嫌がっていても同じ方法を繰り返す、育児放棄して逃げてしまう、などの行動に出る可能性があるのです。私は、虐待してしまう親の中にはかなりの割合でこういった気付かれていない知的なハンディをもった人たちがいて、SOSのサインを出しているのでは、と感じています。
113 本来は保護しなければならない障害者が犯罪者に
115 刑務所にかなりの割合でいる忘れられた人々
おそらく刑務所にいる受刑者は、軽度知的障害や境界知能をもった人がかなりの割合占めていると思われます。法務省の矯正統計表によりますと、2017年に新しく刑務所に入った受刑者1万9336人のうち、3879人は知能指数に相当する能力検査値(CAPAS)が69以下でした。つまり、約20%が知的障害者に相当すると考えられます。軽度知的障害相当(CAPAS値:50~69)であれば約17%、また約34%程度が境界知能に相当(CAPAS値:70~79、および80~89の約半分の合計)していました。つまり、矯正統計表からすると軽度知的障害相当や境界知能相当を合わせると、新奇受刑者の半数近くに相当することになるのです。一般的には軽度知的障害と境界知能を合わせると15~16%程度ですので、やはりかなり高いと言っていいでしょう。
第6章 褒める教育だけでは問題は解決しない
129 全ての学習の基礎となる認知機能への支援を
簡単な図を見ながらそれを正確に写すということができなければ、漢字など覚えられないのです。漢字はワークシートで使う図よりも、もっと複雑で難しい形をしています。点々のガイドもなければ、クネクネ曲がっていたりもします。漢字が覚えられないというのは、形を認知する力が育っていないからなのです。
また、点々の中から正三角形を見つけることが出来ない場合、場所や大きさが変わってもある形を認識できる”形の恒常性”という力が育っていないと考えられます。”形の恒常性”が育っていないと、黒板に大きく書かれたことをノートに小さくして写す、ということができません。
☆を5個まとめて囲む力がなければ、繰り上がりの計算の際に必要となる「数を量としてみる力」が育っていないため、計算が苦手になってしまいます。こういった写す、見つける、数えるといった基礎的な認知能力の弱さが背景にあれば、どうしても勉強についていくというのは難しくなります。
しかし、学校では、漢字ができなければ、漢字の練習をさせる、計算ができなければひたすら計算ドリルをやらせるといったように、できないことをやらせようとしてしまいがちです。計算や漢字といった学習の下には「写す」「数える」といった土台があり、そこをトレーニングしないと子どもは苦しいだけなのです。
例えば、国語の文章問題をさせるには、平仮名や漢字をちゃんと読めるということが前提です。また、算数で面積を求めるような図形問題を解くには、足し算や掛け算、割り算ができることが前提です。これらの前提である平仮名や漢字、四則演算ができないのに、文章問題、面積の問題をひたすらやらせると、ますます勉強嫌いになっていくのと同様なのです。
今の学校では、こういった学習の土台となる基礎的な認知能力をアセスメントし、そこに弱さがある児童にはトレーニングをさせる、といった系統的な支援がないのです。少年院の非行少年たちも同様でした。簡単な図も写せず、短い文章の復唱もできない。そんな状態のまま小学校、中学校で難しい勉強に晒され、ついていけなくなり、勉強嫌いになり、自信の喪失や怠学に結びつき、ひいては非行化していったのです。
第7章 ではどうすれば? 1日5分で日本を変える
149 共通するのは「自己への気づき」と「自己評価の向上」
153 これらは学校教育でも全く同じと感じます。矯正教育に長年関わってきた方が、こう言っていました。「子どもの心に扉があるとすれば、その取手は内側にしかついていない」。まさにその通りだと思います。子どもの心の扉を開くには、子ども自身がハッとする気づきの体験が最も大切であり、我々大人の役割は、説教や叱責などによって無理やり扉を開けさせることではなく、子ども自身に出来るだけ多くの気づきの場を提供することなのです。
目次
はじめに
第1章 「反省以前」の子どもたち
「凶暴で手に負えない少年」の真実
世の中のすべてが歪んで見えている?
面接と検査から浮かび上がってきた実態
学校で気づかれない子どもたち
褒める教育だけでは問題は解決しない
1日5分で日本が変わる
第2章 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年
ケーキを切れない非行少年たち
計算ができず、漢字も読めない
計画が立てられない、見通しがもてない
そもそも反省ができず、葛藤すらもてない
自分はやさしいと言う殺人少年
人を殺してみたい気持ちが消えない少年
幼児ばかり狙う性非行少年
第3章 非行少年に共通する特徴
非行少年に共通する特徴5点セット+1
【認知機能の弱さ】見たり聞いたり想像する力が弱い
「不真面目な生徒」「やる気がない生徒」の背景にあるもの
想像力が弱ければ努力できない
悪いことをしても反省できない
【感情統制の弱さ】感情を統制できないと認知機能も働かない
ストレス発散のために性非行
“怒り”の背景を知らねばならない
“怒り”は冷静な思考を止める
感情は多くの行動の動機づけである
【融通の利かなさ】頭が硬いとどうなるのか?
BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)
学校にも多い「融通の利かない子」
融通の利かなさが被害感につながる
【不適切な自己評価】自分のことを知らないとどうなるのか?
なぜ自己評価が不適切になるのか?
【対人スキルの乏しさ】対人スキルが弱いとどうなるのか?
嫌われないために非行に走る?
性の問題行動につながることも
【身体的不器用さ】身体が不器用だったらどうなるのか?
不器用さは周りにバレる
身体的不器用さの特徴と背景
第4章 気づかれない子どもたち
子どもたちが発しているサイン
サインの「出し始め」は小学2年生から
保護者にも気づかれない
社会でも気づかれない
「クラスの下から5人」の子どもたち
病名のつかない子どもたち
非行化も懸念される子どもたち
気づかれないから警察に逮捕される
第5章 忘れられた人々
どうしてそんなことをするのか理解不能な人々
かつての「軽度知的障害」は人口の14%いた?
大人になると忘れられてしまう厄介な人々
健常人と見分けがつきにくい
「軽度」という誤解
虐待も知的なハンディが原因の場合も
本来は保護しなければならない障害者が犯罪者に
刑務所にかなりの割合でいる忘れられた人々
少年院にもいた「忘れられた少年たち」
被害者が被害者を生む
第6章 褒める教育だけでは問題は解決しない
褒める教育で本当に改善するのか?
「この子は自尊感情が低い」という紋切り型フレーズ
教科教育以外はないがしろにされている
全ての学習の基礎となる認知機能への支援を
医療・心理分野からは救えないもの
知能検査だけではなぜダメなのか?
「知的には問題ない」が新たな障害を生む
ソーシャルスキルが身につかない訳
司法分野にないもの
欧米の受け売りでは通用しない
第7章 ではどうすれば? 1日5分で日本を変える
非行少年から学ぶ子どもの教育
共通するのは「自己への気づき」と「自己評価の向上」
やる気のない非行少年たちが劇的に変わった瞬間
子どもへの社会面、学習面、身体面の三支援
認知機能に着目した新しい治療教育
学習の土台にある認知機能をターゲットにせよ
新しいブレーキをつける方法
子どもの心を傷つけないトレーニング
朝の会の1日5分でできる
お金をかけないでもできる
脳機能と犯罪との関係
性犯罪者を治すための認知機能トレーニング
被虐待児童の治療にも
犯罪者を納税者に
おわりに